星を撒いた街 上林暁傑作随筆集 / 上林暁著, 山本善行撰 / 夏葉社
¥2,420
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《今日家を出てから、妻のことを思い出すのは初めてである。妻は今ごろどうしているだろうか。もう疾っくに晩御飯をすませ、独り窓のそばに坐っているのだろうか。廊下にでも出て立っているだろうか。それとも、もう電燈を消して、寝床に入っているだろうか。
寂しさが込み上げて来た。》
ー「花の精」, p36
《一度堰を切った涙は、止め度がなかった。こんな気の弱いところを妻に見せては、どんな悪影響を及ぼさないとも限らないし、妻としても頼りないだろうから、涙なんか流さないで、しゃんとしていなければならないと思っても、あとからあとから涙は出て来るのであった。上衣のポケットには、涙でグショグショになった鼻紙が、一杯溜まって行った。》
ー「病める魂」, p121
《満天に星が乱れ咲いていた。燈火の数はさっきよりも幾分少ないようではあるが、それでも何千何万という屋根を敷きつめた広大な海原にわたって、きらきらと数限りなく煌めき合っていた。これは空の星を撒いたんだ、と白河はもう一度感嘆した。それにしても、撒かれた美しい星の棲むこの街には、どんな人達が生活を営んでいるのだろう。》
—「星を撒いた街, p217」
市井の、私の、小さな世界を端正な文章で描き続けた作家、上林曉(かんばやし・あかつき)。
自身の妻のことや、世に生きる人々の機微を丁寧に表現した小説七篇を編んだ作品集です。
収録作品は以下の通り。
「花の精」「和日庵」「青春自画像」「病める魂」
「晩春日記」「諷詠詩人」「星を撒いた街」
透徹な眼差しで見つめ続けて、世界に深く染み込んで堆積した「わたし」の軌跡。
【 商品情報 】
『星を撒いた街 上林暁傑作随筆集』
著:上林暁
撰:山本善行
発行:夏葉社
サイズ:四六判, 240頁
2011年7月4日発行