2026/07/04 17:43


革靴の修理の相談を受けるとき
「どのくらい踵が減ったら修理したらよいですか?」
と聞かれることがあります。
そのとき僕は靴の状態を見て、ヒールの一箇所を指さしながら
「ここのあたりまで削れたら修理に出すといいかもしれません」と答えたりします。

正直なところ、今の時代、なんでもAIに聞けば膨大なネット上のデータの中からそれなりに最適な答えをくれるものです。
試しにChatGPTに革靴の踵の修理のタイミングがいつが適切か聞いてみると…

「革靴の踵の修理は、トップリフト(ゴムの部分)の擦り減りが半分を超えた頃が一般的な目安です。...略...トップリフトが1cmのものなら5,6mmが目安。トップリフトが5mmくらいの薄めのものは2,3mm減った段階で修理します」

だそうです。おおかた外れていない答えです。

ちなみにこの記事のタイトルもChatGPTがつくってくれました。察しのいい方ならタイトルを読んですぐに気づいたかもしれません。“らしくない”タイトルをつけてるなって。
ChatGPT曰く、「3つの基準」とか「5つのルール」って数字を入れて書くといいらしい。Googleが検索で上位に挙げてくれるとか。(ほんとかよ!)

昨今のネット社会やAIは、なんでも答えてくれるんだけれど、使えば使うほど「そうはいってもさ…」って言いたくなることも多い。ChatGPTの言うことをまんま信じて、ヒールが2mm削れる度に修理に出していたら、靴修理屋が儲かってありがたい限りだし、でも、実際はそんなことってないじゃんね。
AIの使い方にもよるんだろうけれど、みんなも気づいている。確かにAIはそれなりに答えてくれる、けれど、そういう答えじゃないんだよな...モヤモヤっとしたものは残るから、そしてそのモヤモヤこそひとが解決を望むことだったりするわけで。人間って単純じゃないよね、よかったよ、ほんと、僕らまだ人間で。

この記事では革靴はいつ修理に出すべきか?そのポイントをこれまで靴修理に携わってきた僕の視点から3つ紹介してみます。

まず前提として僕が靴の修理をすすめるタイミングは「この靴を履きつぶして捨てるか、いや修理してもう少し履くか」の2択の段階ではありません。それよりも、もっと手前のタイミング、靴を捨てることが頭をよぎる前の段階です。

革靴は適切なタイミングで修理をしていれば長く履けるし、長く付き合えば愛着もわくものという考え方。
この考え方というか、哲学というか、カルチャーというか、SDGsって言葉が現れるもっと前から我が家の家訓のようにあるもの。丁寧につくられたものは手入れをすれば長く使えるし、長く使えば自分ならではの思い出が宿り、かけがえのないものになる。靴修理の話をするとき、僕はそのことが前提にあります。

で、革靴はいつ修理に出すべき?靴を長持ちさせるための3つのポイントです。

まずひとつ目は「誕生日に靴底をチェックしよう」
これまでの自分の足もとを支えてくれた靴、そしてこれからまたともに歩みを進めてくれる靴を見直す習慣をつくろうということです。
例えば、一年前の誕生日プレゼントに革靴を購入したとしたら、一年間履くと靴底がこれだけ減るってことが知れる。減り具合を知っていることが大事。別に誕生日じゃなくてもいいんだけれど、なにか習慣にしやすいタイミングをつくって、それが1年なのか、半年なのかはひとそれぞれとして、自分のペースで靴を履いているとどのくらいの期間でどのくらい踵が減るものか知っていて、それを修理を依頼する際に伝えてもらえると、それによってより削れにくい素材のソールを提案できたりもします。硬いソールを使えば靴底は減りにくいと思われがちですが、硬いソールと硬いアスファルトやコンクリートなどがぶつかると硬いもの同士がぶつかり合ってソールの減りが早く、むしろ弾力性のあるソールの方が硬い地面と接したときに衝撃を吸収することで削れるのがゆっくりだったりすることもあります。ヒールのエッジが立っているものよりも、ヒールロールしているものの方が靴底は削れにくかったりもするので、ヒールのつけ方、削り方によっても擦り減り方は変わります。そういった話をする際に、靴底の減り具合を把握してくれていると参考になります。血圧みたいなものでだいたいを把握していると活かせることってあります。

二つ目は「すべてを自分で決めなくていい」
仕事中、エクセルの関数がわからなくて職場の後輩に聞いたら「そんなのググってくださいよ」と言われたというエピソードトークはラジオ番組のリスナー投稿でよく耳にする話。それはそうだなと思う一方で、本当に自分がわからないことがあって誰かに聞きたいときに聞きずらい、自分自身で調べて解決しなくちゃいけないことかもしれないと勝手に圧を感じる。これってひとに聞いていいことですか?ってChatGPTに確認してからひとに聞くようになるなんて世も末ですね。
わからないことは聞けばいい。聞くは一時の恥(でもない)、聞かぬは一生の恥(後悔)。
例えば、親から譲り受けて、とても気に入って履いていた靴が履けなくなった。ネットで検索したり、AIに聞いてみたら修理が不可能そうだったからという理由で諦めないでほしい。チェーンの靴修理屋だとメニューが決まっているから難しいかもしれないけれど、個人経営の靴修理屋なんてこんなときにこそ本領発揮というか、そのために日々、些細な技術の向上を自分のものとしているような人間なんだから。事情を話せば、できる限りを尽くしてなんとか応えようとするのがものづくりを志している人間のサガだと思う。
同じ人間がつくったものなんだからできないことなんてないだろう、が父の口癖でした。

三つ目は「靴のことは何でも相談できる店主を見つける」
これに尽きますね。靴のかかりつけ医のような存在をつくること。
できれば自分と同じ生活圏に住んでいる近所の靴修理屋だとライフスタイルや路面環境もイメージしやすく、提案してくれる修理の種類もきめ細かい。
百貨店の靴売り場コーナーに「夏用ソール/冬用ソール」と書かれたポップがある北海道なら地元の靴修理屋の方が、持ち込まれた靴に対してどんな修理が求められているのか察しがよく、その解像度も高い。
もし近くに靴修理屋がないようなら遠方であっても、このひとの仕事の仕方が好きだなとか、考え方に共感できる店主を探してコンタクトをとってみてもいいと思う。ありがたいことで、うちは定期的に受注会を開催している会場では、過去に納品した靴を履いてくれている方々が修理が必要になったタイミングで靴を持って来てくれます。

以上が3つのポイントです。ポイントというか、心構えみたいなものになってしまったけれど。
最後に補足情報として、革靴の修理として一番多い「踵の修理」に関してまとめておきます。AIに聞いてもわかるっちゃわかることなんだけど。

【 トップリフトのみ交換① 】
上の写真のようにヒールのトップリフトといわれる部分(地面に接するパーツ)が5mmの厚みの場合、このトップリフトの擦り減りが5mm以内のタイミングでトップリフトのみ交換できるとコストも抑えながら修理できます。

【 トップリフトのみ交換② 】
上の写真のようにスタックヒールとトップリフトの素材や色が違ったりすると修理の目安がわかりやすいですね。トップリフトだけを繰り返し修理するのが理想です。スタックヒールまで削れてしまうと場合によっては追加の修理代がかかることがあります。

【 まずは約10mm擦り減ったら…が目安 】
例えば写真のように全体で20mmのヒールだったとするとその50%~60%くらい擦り減った時点で修理が必要になります。約10mm擦り減るとかなり靴自体は傾きますが、ヒールが徐々に削れてゆくと身体も少しずつその傾斜に順応してゆくので、結果的に靴はすんごく傾いているのにまったく気づかないひとも多いのです。ヒールの外側とか、内側が削れやすいという特徴があるとまだ気づきやすいですが、全面がバランスよく削れてゆくひとはとくに気づけません。でも、それが気づかないところで身体の不調につながっていることもあるので、ひとまず約10mmの擦り減りが目安でよいかと。

【 50%~60%擦り減ったら? 】
ヒールの高さの50%~60%擦り減ったら修理をするという表現の仕方もよく見かけますが、靴のヒールの高さが3cmと8cmとでは傾き加減がまったく違います。3cmの半分は1.5cmなので、そのタイミングでの修理でもよいですが、8cmの場合、50%の4cm擦り減るとかなり後ろに重心が傾くので歩くのが難しい、転倒する恐れもあります。ヒールが半分くらいまで減ったら修理しましょう、という文言が適応されるのはヒールの高さが3cmくらいまでの靴の場合です。

【 ヒールってどこまでのこと?フラットソールの場合 】
地面を靴底全面で接地するフラットソールの場合はアウトソールとミッドソールで見分けるといいかもしれません。写真のように靴底をよく観察すると層が重なっているのがわかります。地面に接地する靴底をアウトソール、そのアウトソールと靴の間にあるのをミッドソールと呼びます。写真の場合、アウトソールの厚みが1cmなのでそこが擦り減った段階で同じ厚みのアウトソールに交換するのが修理の際に靴を傷めないですし、コスト的にもよいかと。ミッドソールの交換まで必要になってしまうとその分コストがかさみます。

【 アウトソールのみの場合 】
ミッドソールがなくてアウトソールのみ、しかもそのアウトソールが5mm以下の薄いものもあります。使い方やソールの素材にもよりますが5mmは思っているよりも早く削れてしまう場合があります。なのでまずこのような靴を買うときは、履くシーンを限定した方がよさそうです。まずホテルとかレストランとか室内で履くものという認識の方がよいかと思います。もしくは車横付けでレッドカーペットの上を歩くときとか。
一度接着剤で貼り付けた面は剥がすと傷みます。なので厚さ5mmのアウトソールの場合、踵の部分が3mm擦り減った段階で修理に出し、残りの厚さ2mmのところにパーツをつけ足して修理してゆくのがのぞましいです。

以上が踵修理のおおまかな判断基準です。参考になれば幸いです。

さて、トオクではメンテナンス済みの中古革靴を販売しています。今日書いたことを中心に実際に修理した靴たちをオンラインストアにて販売しています。今月開催する企画展の際にも販売しますのでご興味ある方はお立ち寄りください。




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