2026/05/08 09:52

InstagramのフィードやXのタイムラインで靴作家や個人の靴修理店が接着剤やプライマーが入手できないため、新規の靴のオーダーや修理はストップしているという話を見かけます。
うちもゴム系の接着剤の入荷は先月が最後で今月以降は未定のまま。革用の水性接着剤も使っているのでアッパー製作時は水性接着剤を使用し、靴底接着の際(靴底修理のときとか)のみゴム系接着剤を使用することで使用量を調整している。
このタイミングはたまたまなのかどうなのか定かではないけれど、靴のブランドをクローズして別事業へ転向するブランドも見聞きする。ブランドの規模が大きければ大きいほど、その決断もスピードが求められるのかもしれません。

大学4年生の頃、まわりの学生達は慣れない革靴やパンプスヒールに靴擦れしながら就職活動をしていました。僕も1時間も履けば足の親指と小指が痛くなるような窮屈な革靴を履いてリクルートスーツ姿で就活。革靴はきついくらいでいいんですよ、と店員に言われて購入した25.5cm、4Eの革靴はやはりどう考えてもきつい。まわりの友人たちに聞くと体感で3割くらいの人がなにかしら靴による不具合を抱えていた。女性に限ればもっと多い印象だった。
資料を探せばそれらを裏付けるデータはいくつもあって、足病科のある欧米の方がその研究もデータも進んでいる印象があったけれど、骨格のつくりや筋肉量という観点で見れば日本の方が足のトラブルを抱える人は多いのではないかという予測もあった。それなのに具体的な解決策というものが見当たらない。なぜこんなことが起きているのだろう。企業の会社説明会に向かう電車の中、窓に映る自分の顔を眺めながら、これだけ切実に靴に悩んでいる人たちがいるんだから、その人たちの悩みを聞きながら一足一足手づくりで靴をつくってゆけば仕事になるんじゃないか。そんなところから靴づくりの道へ足を踏み入れた。

今、振り返れば、その頃すでに手づくり靴は斜陽だったけれど、いくつかの靴工房に訪れて、特殊な工具や工業用ミシン、作りかけの靴が並んだ光景は新鮮でワクワクしたし、お客さんとの靴づくりのエピソードを職人から聞くたびに僕の心は動かされ、魅力的な仕事に出会えた喜びに確信した。見様見真似でエントリーシートを書いたり、使い慣れない言葉を使って取り繕うように面接試験を受けるよりも、よっぽど現実味のある、打ち込む価値のある仕事が目の前にあった。

それから約20年ほど経って靴と足を取り巻く環境も変わった。コロナ禍という大きな転換もあった。
今は就活の際に革靴やパンプスを履かなくてもよくなったし、ビジネスシーンに合わせて色やデザインのトーンを抑えたスニーカーがたくさんつくられるようになった。昔ほどスーツも着なくなってカジュアル化が進んだ。老舗の革靴ブランドが革靴とスニーカーを融合した靴をリリースしたり、靴づくりに使われる素材や製法の革新も進んで、足にストレスのかからない構造のスニーカーが生まれ、ますますスニーカーを履いて対応できる生活のシーンが広がった。
仕事上、パンプスを履かないといけないとか、革靴は大人の嗜みということもなくなった。人々の常識や価値観といった慣習が更新され、靴づくりに関する技術的な革新、その双方が相まって進んだ。今、もし僕が大学生だったら、足に靴が合わないという切実さを抱えるひとたちの姿よりも、もっと別の切実さを生活の中で感じる人たちに目が行っただろう。

今、実店舗はクローズしているトオクという店もよくよく考えれば、僕自身がクラフトに造詣が深いというのではなく、これだけ世の中に思いやセンスがあってなにかを生み出したり、表現している人たちがいるのにそれが届かない切実さをなんとかしたいと思い作家の作品や活動を紹介してきた。(お節介にも、そう、非常にお節介なのだ!ただ、自分の行動をそう説明できると自分の中で腑に落ちるところが多々ある。)

結局のところ、僕の場合、誰かの中にある切実さをなんとかするために動いているところがあって、働くとは基本的にそういうものであるという感覚がある。大学で学んだ社会学という分野はまさに社会からこぼれ落ちてしまう小さな声を拾ってゆくための視座を与えてくれる学問で自分の活動のベースになっている。

今、僕は地域の区議会議員をやっている。組長や衛生委員などと同じで自治会に入っていると回ってくるやつ。慣習と惰性で続いているような役職と揶揄されるけれど、やりはじめると地域の隅々にいろんな人が住んでいて、その数だけ切実さがあって、なんとかならないかと思索をはじめてしまう自分がいる。
これまでも地域に空き家があるのにその情報が発信できていないと聞けばポータルサイトを立ち上げて運用し、求人情報が地域の人に見えてこないと相談されればSNSアカウントを立ち上げて発信し、子どもの学びに関するワークショップを依頼されれば開催する。その全てに関わる人たちがいて、その人たちが抱える切実さがある。それをなんとかしたいと思うけれど、予算が足りないので活動費を自分の靴の売上で補填するようなかたちで行うから、時々通帳の残高を見て悲しくなる。ひとの切実さより、自分の切実さと向き合わなければ、ただのお節介おじさんだ。せめて息子を大学卒業させるまでは。息子はまだ小5だから先は長いのだ。

40代前半にしてやっと世の中が見えてきたというか、解像度が上がってきたというか、そして自分が関われる範囲はそんなに多くないのだよという気づきというか、悟るには遅いのかもしれんけど、自分の場合はこのペースだったのでしょう。
じゃあ、これからどうするの?という帰路に立たされているところの接着剤の入荷未定のお知らせが届く。ちょっと前には長く使ってきた輸入の牛革が今後入荷できなくなる連絡も来た。(その後、価格は上がるけれど入荷できそうなことはわかったんだけど)

色々と考えてしまいますね。考えてしまいますが、無理なものは無理だし、それはコロナ禍で痛感し学んだことだし、でも続けていないとタイミングが来たときにすぐに動けないし、だから細くても地道でも、今日も靴をつくり、修理したり、その過程で些細な向上を自分のものとして、よりよい靴づくりを目指しながら、夏はなにか日雇いのバイトをしてゆこう。Life goes onしてゆかねば。(Life goes onといえば?Dragon Ashですか?僕はLOVE PSYCHEDELICOですね)

優しさ思い知るまで
悲しみに挑むような君が好きさ
falling to the end of the sky
I am rolling over the rain
feeling to the end of the mind
I am growing over the pain
rolling to the end of the sky
I am falling over again
life goes on
「Life goes on」LOVE PSYCHEDELICO


次回の出展は静岡県の三島で開催されるヴィレッジ三島楽寿園です。
現在、中古革靴の在庫の一部をオンラインストアにも掲載しています。前回の名古屋アンティークマーケットで一度革靴を試着されて検討中の皆さま、ぜひご利用ください。


—【 次回出展 】—————
ヴィレッジ三島楽寿園2026
HP https://village-mishima.com
Insta @village.mishima_rakujuen 
会期:5月16日(土)17日(日)
時間:9:00〜16:00
場所:三島市立公園 楽寿園
三島駅南口徒歩1分(公園駅前口まで)

今季のテーマ
★古道具を中心とした出展者が集まる【北の蚤の市】
★装いの作家が集まり特別な試着室が建つ【装いの街】
★風や香りを表現する出展者がつどう【風薫る街】
そして、年に一度の楽寿園における特別な空間、
梅御殿が存分に活かされる【サワーの会】では
陶磁やガラスの作家の作品を実際にお試しいただけたり。
そのほか、エリア【梅の小径】は装身具を中心した作家が集い、
乙女心をくすぐるテーマ【きらめきの小径】を提案します。

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