2025/04/21 13:42


|4月1日(火)
秋のクラフトイベントの申し込みなどがはじまっているけれど申し込み用紙に書く自己紹介や作品説明文の筆が進まない。
だんだんと屋外のイベント出展が難しくなってきたのは、作家同士で歳を重ねるとともに囁かれる体力的限界とか、そういうことではなくて、僕の場合、単純に自分のつくる靴の雰囲気や伝え方が移り変わってきたからというところが大きい。かといってスパイラルで開催されるようなバイヤー向け見本市へ出展というのでもない。ルミネやニュウマン新宿のエスカレーター脇に出展して販売するのでもない。靴を卸でやりたいわけでもない。若干迷子になっているけれど、それが突破できればまたひとつ違った視座が獲得できると信じている。


|4月2日(水)
靴の製作とオンラインストアの発送。


|4月3日(木)
絲山秋子さんの「離陸」を読み終える。僕自身が小説の舞台になる矢木沢ダムもフランスも熊本も、主人公の実家の四日市も長崎の五島もすべて馴染みのない土地ゆえ物語の舞台が細く長いつり橋のようで心細く進む。さらに情報量が少なくて捉えどころのない登場人物たちが現れては消えてゆく(亡くなってゆく)。その喪失感の余韻において、もう十分に語りつくされていたことを後から痛感する。気づけなかったのは僕だったのだ。本のページを遡りながら、もっとひとつひとつの文章から人物の人となりを深く汲み取ることができればよかった、もっとその人の振舞から理解できるヒントがあったはずなのではないか。その感覚はまさに主人公の喪失感とも共鳴する。現実世界の別れもまさにそうなのだ。
「残されたぼくらがこれからの日々をどんなに長く感じても、死者はそれぞれの主観のなかでは十分に長く良き日々を過ごしたのだと思います」という一文を大事に携えてゆきたい。


|4月4日(金)
息子が学校から持ち帰ったお便りに目を通していたとき「枝垂桜」という文字を「エダタレサクラ...?」と読んで首を傾げていたら「シダレザクラ」と、かあちゃんがボソッと言う。それが僕に発せられた言葉として気づくのにいくらか間があって、え、これをシダレザクラって読むの?と慄然した。息子が通っている小学校はかつて僕が通っていた小学校でもあって、このお便りの「枝垂桜」がどの桜の木のことを言うのかはっきりと景色まで描けているのに合致しない。あの桜を枝垂桜?枝が垂れているから枝垂桜というの?なんて風情のない漢字を当ててるのだ!もうちょっとなんかこう漢字に情景があってもいいじゃないか、日本人。枝垂桜という漢字を覚えた41歳、春。全然納得いかない、41歳の春。


|4月5日(土)
子どもたちのバトミントンの練習に参加。いつだったか事前に覚えようとしてYouTubeで見ていたラケットの握り方は古い握り方で、もうそういう握り方をしている人はほとんどいないという。ネットにはたくさんの情報があふれているけれど、素人がそこから正解を獲得しようとすると難しかったりする。そうなっていると「元日本一」「オリンピック出場選手」「〇〇県1位」みたいな実績を表す肩書が書いてあるYouTube動画を参照することになるけれど、うまいプレイヤーは基本をすっとばして、自身が編み出した実践的な理論を主に語りたがるから、うちの息子みたいにバドミントンをはじめたばかりの子どもには難しかったり、僕みたいな素人の親の理解が追い付かなかったりする。結局、身近にいるコーチに直接聞いてゆくのが一番わかりやすいし、修正もきくのだと思う。あとはとにかく量だよ、量。反復練習。


|4月6日(日)
昨年の秋植えた長ネギを今、収穫している。マジか!?と言われそうだけれど、そうマジなのだ。冬の寒い時期も畑の真ん中に立ち、雪が降れば雪の下でじっと春を待っていたネギ。意外と立派な太さと長さになっている。同じ時期に植えたほうれん草と小松菜も今、収穫している。去年は忙しくて秋野菜を途中から放置してしまったけれど地味に育っていた。ワイルドな風貌になった肉厚なほうれん草も小松菜もおいしく食べられている。たくさん採ってきたつもりでも茹でると信じられないくらいに縮んでしまう。「これだけ!?」と息子が驚愕している。


|4月7日(月)
市の健康推進課から電話が来る。去年、市が実施する健康診断でひっかかったので、後日病院で診察してもらい、その報告をしてから半年経つけれど、その後、どうですか?とのこと。体重は減っていますか?運動はされてますか?ストレスはありませんか?って、それに答えたところで「お医者さんに相談してくださいね」と言われるくらいで、結局この電話1本かけることの意味と言ったら、電話をかけてきた市の職員が年度末に業務の実績報告をする際、健康診断後の経過観察何件確認しました、というレポートを提出するための実績づくりで、それをきっと電話をかけている市の職員も電話を受ける市民もわかっていて業務が形骸化している、なんと生産性のない会話だろう。そのうちAIに怒られるよ。


|4月8日(火)
展示会の準備で家の中の什器を整理したり、手入れしているうちに家の片付けに発展する。以前にもクリーンセンターに大量の布団を持ち込んだけれど、それでもまだハイゼットの後部座席と荷台にいっぱいの量の布団や絨毯などが出てくる。実家というのは不思議なもので、これでもかというくらいものが納まっている。祖母がいなくなり、祖父がいなくなり、父がいなくなり、今の家族4人だけでは実家は大きすぎるけれど、その隙間を埋めるようにものが鎮座している。家族がかつて使っていたものを処分するのはその家族との記憶も一緒に消えてゆくようで忍びない。それがたとえもう使うことのないせんべい布団一枚だったとしても。


|4月9日(水)
受注会の前なのに息子のバドミントンの練習に参加。このおじさんとだと練習相手にならないと小学生たちに思われても悔しいので頑張る、シャトル出しとか、シャトル拾いとか、声出しとか。ケガしないようにできることはすべて。子どもたちのうまくシャトルが打てなくてがっくりする姿もシャトルがネットに引っかかって不貞腐れる様子も練習後のモップかけでモップの取り合いになっているのも、すべてキラキラ輝いて見えるのは僕がずいぶん遠くまで来たからなのでしょう。


|4月10日(木)
展示会のための靴や什器をハイゼットに積む。エンジンにターボがついていない軽自動車なので高速でスピードが出るか心配。ずっと左側を走っていると思う。


|4月11日(金)
午前10時頃に静岡へ向けて出発。双葉JCTから中部横断道へ入って南下する。今年になってはじめて車のエアコンをいれるも効かず、車内が暑く、途中サービスエリアで休憩。車内にこもった熱気を窓を全開にして出す。13時半ころにひばりブックスさんに到着。店主の太田原さんにあいさつして搬入と設営開始。16時オープンの予定で進めていたけれど、途中15時前にお客さんが来てくれて、でもまだ対応できる感じじゃなかったので16時オープンであることを伝えるも、その後、そのお客さんが戻ってくることはなかったのが心残り。またどこかで出会えることを願っている。設営も終わり、16時から20時までオープン。浜松からお越しいただいた方もいた。静岡の土地勘がないのでピンときてなかったけれど、夜、ホテルに戻ってグーグルマップで調べると静岡市と浜松市ってけっこう離れていることがわかる。長野でいう伊那市から大町市くらいの距離が離れている。18時からひばりブックスさんの店内では詩の朗読会も開催されていた。夜ご飯は、デザイナーのhaseさん、岩本さん、服のオオツカさん、タナカさんとおしゃれなフードコード(?)で食べる。僕が遅れていったのでビリヤ二が売り切れで、お惣菜盛り合わせみたいなワンプレートを食べる。久しぶりに都会的な雰囲気でそわそわしてパンがもそもそした。haseさんがニューバランスの緑のスニーカーを履いていた。オオツカさんとタナカさんが購入したアイスをひと口味見させてもらった。「めっちゃお茶!」「めっちゃ月桂樹!」という語彙のなさを露呈した。


|4月12日(土)
靴の展示会2日目。天気がよく半袖でも過ごせるような暖かさだった。午前中は護国神社で開催されていたA&C静岡手創り市から流れてきているお客さんが何組かいた。僕も以前、出ていたことがあるんですよ、という話をした。その当時のお客さんとも偶然に再会して四方山話が盛り上がる。いつもは足計測をしなくて靴を購入するひとたちが半分、足計測をしてオーダー頂くひとたちが半分くらいの割合だったけれど、今回はほとんど足計測をして受注することが多かった。せっかくの機会だからぜひ足計測してみませんかと僕が提案していたこともあるけれど。女性には足を見せることに抵抗があるひとが少なくない。あらかじめ靴を買うつもりで来ている人はそうでもないけれど、試しに見に来てみて、興味を持ってくれて、いざ注文しようと思ったときに、足計測は恥ずかしいです...と言われることもある。フフフ…。
この日の夜は名倉さんとhug coffeeのさゆりさんと照明作家の齋藤さんとhaseさんと小だるま亭へ。さゆりさんとはおそらく初めましてだけど同郷であることがわかる。食事のあと、さゆりさんは帰路ですれ違う人がいると「○○さん!」と呼び止めてはひと言ふた言話していて、顔が広い方なんだろうな。自分が生まれ育っていない土地に住まいを構え、そこでの人とつながり、生活してゆくことはどんな感じなんだろうと少し想像した。帰り道、なんとなくみんなと同じ方向へ歩いていたけれど「あれ、ムロネさん、ホテル逆方向っすよ」と名倉さんに言われて来た道を戻ることとなった。言われた通りまっすぐ歩いていたらホテルに着いた。
そういえば、ホテルの大浴場の浴槽は大人が3人入ると4人目はどこに入るか気を遣うってくらいの広さだった。全員が体育座りでぎゅっとして入れば、銀だこ8個入りくらいのぎゅうぎゅう感では入れるけれど、それだったら部屋のユニットバスの浴室の方がゆとりがあるだろう。


|4月13日(日)
展示会3日目、最終日。今回の展示会ではアッパーにゴムを使った新作のKlasse-fとTulipの反応がよかったけれど、初めての革靴だったり、しばらく革靴を履いてなくて久しぶりに革靴を履くという方が多く、せっかくの革靴ならきちんとした紐靴がいいということで最終的には紐靴を選ばれる方が多かった。これがリピートの方が多かったり、革靴2足目、3足目の方が多ければ受注内容は変わったと思う。いずれにせよラインナップの中でわかりやすい比較対象があったことで選びやすさもあったのではないかと考察している。次回の東京の受注会ではもう2、3種類デザインを増やすわけだけど、また反応が楽しみ。
ひばりブックスさんでの撤収作業の後、近所の大野写真研究室で開催されていた照明作家の齋藤さんと名倉さんの展示会へ。少年から青年をすっ飛ばして中年になったひとたちが長い旅路の末、青年になって戻ってきたような、つくることのみずみずしさを感じられる空間だった。ひとは年齢を重ねてゆくとだんだんと遊ばなくなってくるけれど、このふたりはどんどん遊んでゆく、自由になってゆくような気がする。
夜は照明作家の齋藤さんと岩本さんとご飯へ。大野さんが車で送ってくれた。日中ご飯を食べずにすきっ腹にお酒を飲んだせいか、展示会の疲れがでたのか、はたまた店内のたばこのにおいにやられたのか、急に具合が悪くなり途中退席。どうやってホテルに着いたか記憶が定かではないけれど、具合が悪いのにシャワーは浴びたようで、翌日の着替えもちゃんとテーブルに並べて寝ていたことを朝、起きてから知る。


|4月14日(月)
朝、起きて体調が回復している。ホテルの朝食も3日目になると代り映えのないメニューに飽きてくる。朝からカレーを食べる。福神漬けがなかった。
9時半にChipakoyaさんのところへ。今後の打ち合わせ。Chipakoyaさんらしい企画になるといい。この話は今後またどこかでご報告できると思う。
お昼は通りすがりにあったラーメン屋。つけ麺を何年振りかに食べた。ただ、これって冷やし中華じゃないか?というつけ麺だった。食べながらお寿司10皿と締めにラーメンを食べる大野さんのことを思い出した。新静岡ICへ向かう途中のリサイクルショップでフランスのミリタリーパンツを見つけて気に入ったので購入。穴が開いていたところを2か所手縫いしているのが好感だった。


|4月15日(火)
ひばりブックスさんでの滞在中に購入して読んだ本とこれから読む本。

その他、ひばりブックスさんのオンラインストアから購入できるおすすめの本
興味ありましたらぜひ。


|4月16日(水)
小松菜とほうれんそうを収穫している。小松菜を茹でるのに飽きた、とおふくろが言ってる。ほうれんそうは妻が茹でてくれる。


|4月17日(木)
野外イベント用のテントを物置から引っ張り出してくる。かれこれ4,5年使っていなかったので恐る恐る箱を開けるも劣化した段ボールはビリビリと避けてゴミになる。幸いテントは目立った汚れやカビなどもなく一安心。一人で組み立てようとするもフレームが重く、腕がダルシムくらい伸びないと骨組みが広がらないので断念する。学校から帰宅した息子に手伝ってもらってテントを設営する。来週のイベントは助っ人で息子を連れて行かないとだ。


|4月18日(金)
テントの布を洗う。天井部の布とサイドを囲う3面の布の合計4枚。4階のベランダと1階の物干し竿がフル稼働。
その後、靴の修理。
天気がよくテントの布もしっかりと乾く。

|4月19日(土)
バドミントンの練習のため息子を駒ヶ根へ送ってゆく。途中、息子と同級生の子もピックアップして連れてゆく。子どもたちを車に乗せて運転しているときに唐突にこの景色どこかで見たかも!とぞわっとする。これまでも何度か自分が子どもの頃に体験していたことを親目線で見ることがあってはっとする。例えば、息子がまだ寝ている居間の隣の台所で朝食の準備をしているとき、小学校の運動会でスマホ片手に息子の姿を探しているとき、風呂で息子の背中を流しているとき、おそらく自分の親が見ていたであろう視点でかつての体験を追体験している感覚。僕がミニバスをしていたときも親はこうやって子どもたちをのせて練習会場や大会会場へ送り迎えしていたのだ。自分の親の姿と今の自分が重なって親をやっているという実感につながる。こういうかつての親と今の自分のシンクロがたびたびあって、その都度僕は柄にもなくじーんとしている。こういう感覚をまったく気に留めない豪快な頑固親父になると思っていたのに意外と線の細い繊細な親をやっているような気がする。


|4月20日(日)
最近、珈琲が飲めるようになったんじゃない!?説が浮上中。




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